数年前の暮れのことだ。同級生の有志が集まって、忘年会みたいなことをした。その流れの二次会で、某金融系の会社に勤めている友人がこう言った。
おまえ、オレが今の仕事に「しがみついてる」って思ってるんだろ?
ぼくは全くそんなことを考えたこともないので、酔いも覚めるくらいびっくりした。
それでもな、会社の部下や若手には、他所に行っても通用するスキルを身につけろ、っていつも言ってるんだ。
彼は役員にこそなれなかったけど、90年代以降の金融再編の荒波を乗り越えて、その会社の主流生え抜きで生き延びている。もちろん運もあるけれど、そーとーな能力がなければできることではない。
ぼく自身、最初に就職した会社が今も存続していたら、つまり「世が世であれば...」と時々空想はする。何回も転職したし、早期退職もしたけど、「それしか、その方法しかなかったから」しただけのこと。酒も入った同級会の二次会で話す話でもない。しらばっくれて、話題を変えた。
「仕事にしがみついて」っていう言葉は軽々しく弄んではいけない。しがみついてでも仕事から離れてはいけない状況はあるし、多くの場合がそうだと思う。
もしかしたら、彼に対して「仕事にしがみついてる...!」と言う陰口や悪口を言うヤツが職場にいたのかもしれないな。だとしたら、くだらねえこと言いやがるもんだ。
最近は「仕事をしないオヤジ世代」などとあまりに軽々に揶揄されすぎだと思う。言われる身にもなってみなよ。
翌年の年明けに彼から年賀メールが来た。
暮れにはつまんないこと言っちゃったな。今年もしぶとく行こうぜ!
そう書いてあった。学生の頃の彼の屈託のない笑顔を思い出したよ。
そうそう、しぶとく、しぶとく行こうよ。
街のネズミも田舎のネズミもネズミはネズミ。
(特定されないように設定にはフェイクを入れています。そして「彼」の許可を得た上での投稿です。)
© 朽木鴻次郎
~~~~~~~~~~~~~
トップページはこちらです。
~~~~~~~~~~~~~