1980年、大学に入ったばかりの頃。前期学生の多くがが取る「商業通論第一」の授業を受けていました。先生は泰斗のT-教授*1。
「入学まもない諸君達にこれだけは行っておく!」
先生がバリトンの声を一段張り上げました。
大教室に響き渡ります。
「諸君達は、卒業して財務や経理の仕事、お金を扱う仕事をするようになるだろう。そのとき一本の電話がかかってくる。『資産運用をしませんか?』という話だ。そんなときにかぎって、諸君の座っている机の後ろにある金庫の中には会社のお金がある。しかも明後日までは使う必要のないお金だ。
最初の1回目は必ずお金が儲かる。明後日まで必要のないお金をほんの一日回すだけでサラリーマンの小遣いとしては十分以上のお金が手に入る。『会社に迷惑をかけているわけではない』と、自分には言い訳をしてしまう。二回目もお金を手にすることができるかもしれない。そうして回数を重ねて、気がつくと損をしている。一生かかっても支払えないような額だ。そしてそれは諸君のお金ではなくて会社のお金だ。退職金で穴埋めをして、辞職を余儀なくされて人生を棒に振るのだ。諸君達の先輩にそんな陥穽(おとしあな)に落ちてしまった者は何人もいる。こんなことは新聞にも出ない。
だから今日、このぼくが、怖い顔をして言っていたことを忘れないでいて欲しい」
先生、覚えていますよ。「怪しいけど魅力的な投資・運用を誘惑する一本の電話」は、投資や運用の話だけでなく、ありとあらゆる姿・カタチを変えた誘惑で、何回かぼくの “みみもと” に優しくささやきかけてきたことがありました。仮にぼくが生き延びられてきたとしたら、それは先生のこの言葉のおかげだったのかもしれません。
ありがとうございます。
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もう一つ、T-先生の講義で覚えていることがあります。
『莫大小』
これはなんと読むかわかるか?
当時は読めなくて「キョトン?」でしたけど...
はい、覚えています。「メリヤス」です。大きくても小さくてもフィットするからですね。 ...... メリヤス自体がもう通じないか。
あはは。
©️朽木鴻次郎
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*1:田内幸一先生です。